飲食店の海外出店のメリット・手順・注意点まとめ
2020年現在、人口減少や景気停滞によって国内市場が縮小しているなか、飲食店の海外出店・進出が進んでいます。
飲食店の海外出店にはどのようなメリットがあり、どのような手順が必要なのか、海外進出時には何に気をつけるべきなのか、という疑問を持っていませんか?
ここでは、海外出店のメリットや流れ、出店すべき地域、海外出店で注意すべきことなどをまとめて解説していきます。
Contents
飲食店の海外出店のメリット
まず、海外出店のメリットを説明します。海外出店のメリットが大きくなければ、手間も費用もかかる海外出店をわざわざ行う必要はありません。
しっかりとメリットを見定めて、自分の業態にも当てはまるかを考慮しましょう。
販路拡大
少子高齢化によって国内市場の縮小のなかで、国内需要の取り合いをするよりも、機会の大きな海外で営業した方が利益を得られる可能性があります。
アジアの発展途上国や中国などは人口も増加しており、市場が大きく成長しています。人口が増え見込み客が大きくなることで、飲食店の販売機会が高まっているのです。
このように、国内の熾烈な競争を避けて販路を拡大できるのは海外出店のメリットです。
需要が伸びている
飲食店の海外出店のメリットとしては、日本食への需要の高まりによって収益が見込めるということがあります。
2019年に農林水産省が発表したデータによると、海外における日本食レストラン数は2017年よりも1.3倍に増えています。
そして、2006年からの推移としては以下となっています。
年代 | 2006年 | 2013年 | 2015年 | 2017年 | 2019年 |
---|---|---|---|---|---|
店舗数 | 約2.4万店 | 約5.5万店 | 約8.9万店 | 約11.8万店 | 約15.6万点 |
推移 | – | 2.3倍 | 1.6倍 | 1.3倍 | 1.3倍 |
参考:『海外における日本食レストラン数の調査結果(令和元年)の公表について:農林水産省』
2019年まで日本食と分類される飲食店の数は、増加の一途をたどっていることがわかります。
このデータから、日本食の認知が高まり、需要が大きくなっていることがわかります。
理由としては、海外でのヘルシー志向の高まり、2013年に「日本食(和食)」がユネスコの無形文化財に登録されたことなども考えられます。
今後も、海外市場において、日本食の飲食店への需要が伸びていくと考えられるでしょう。
海外でも嗜好に合っている
JETRO(日本貿易振興機構)が、中国・香港・台湾・韓国・アメリカ・フランス・イタリアの7つの地域で行った「自国以外の好きな外国料理」に関してのアンケートがあります。
このアンケートでは、アメリカを除く6つの国・地域で「日本料理」と回答した人が一番多い結果となりました。
全体でみても、「日本料理」と答えた人が21.1%と、2位のイタリア料理を大きく引き離しています。
日本食は文化の異なる海外の人に受け入れられており、嗜好にも合っているということが伺えます。
このように日本食は人気があるのでターゲットとなる数が多く、海外出店したとしても収益が見込める可能性が高いのが大きなメリットです。
リスク分散ができる
海外出店の他のメリットとして、「リスク分散」が挙げられます。
国内の景気や需要によって、国内店舗の収益が減少したとしても、海外であればその影響を受ける可能性は低いです。
海外店舗の数を増やしておけば、国内の多くの店舗が不振だったとしても、国内の事業を縮小して海外の方に注力するという方法も考えられます。
このように、経営のリスク分散ができる、リスク対策ができるのが海外出店のメリットでもあります。
高めの価格設定ができる
飲食店の海外出店の大きなメリットとしては、海外では日本食の付加価値が高いことがいえます。
高い付加価値があることによって、日本での価格よりも高めの価格設定が可能となります。
実際、ラーメン一杯を2000円〜3000円で出しているお店もあるくらいです。
日本国内ではコスパ重視の飲食店も、現地ではハレの日に利用されるちょっと高めの店にできる可能性があります。
コストを抑えられる
東南アジアなどは、日本よりも原材料費や人件費、家賃が安い傾向にあります。コストを抑えられるので、利益を得やすくなります。
コストを抑えながらも、付加価値によって高めの価格設定が可能になれば、国内で営業するよりも利益率を高めることができるのです。
飲食店の収支において、コストの占める割合は重要なポイントです。コストを抑えられる国への海外出店のメリットは大きいです。
また、メーカーなどの他業種が海外進出する場合に比べて、外食店が海外進出する際にはかなり投資額を抑えることができます。
投資額が少ないというのも、飲食店の大きなメリットといえます。
海外出店すべき地域
ここまで、日本の飲食店が海外出店するメリットを紹介してきました。
では、海外出店の際には、どの地域に出店するのがよいのでしょうか?同じく農林水産省によるエリア別の日本食レストランの数から考えてみます。
エリア | 2019年の店舗数 | 2017年の店舗数 | 2017年から2019年での増加率 |
---|---|---|---|
アジア | 約101,000店 | 約69,300店 | 5割増 |
北米 | 約29,400店 | 約25,300店 | 2割増 |
欧州 | 約12,200店 | 約12,200店 | 横ばい |
中南米 | 約6,100店 | 約4,600店 | 3割増 |
オセアニア | 約3,400店 | 約2,400店 | 4割増 |
ロシア | 約2,600店 | 約2,400店 | 微増 |
中東 | 約1,000店 | 約1,000店 | 横ばい |
アフリカ | 約500店 | 約350店 | 5割増 |
参考:『海外における日本食レストラン数の調査結果(令和元年)の公表について:農林水産省』
日本食レストランが多いのは、距離的・文化的な面からもやはりアジアとなっております。
次に北米ですが、これはアメリカがあるからと思われます。
北米や欧州などの先進国の地域では、海外の食を受け入れる土壌が育っていると考えられます。
欧州は増加率が横ばいであり、需要が伸びていないので出店には向かないでしょう。
中南米は増加率が高く需要が伸びているのですが、治安や交通の便を考えると出店にはリスクがあるかもしれません。
需要の伸びや文化的下地、距離、店舗数を考えると、海外出店にはアジアがベストといえるでしょう。
また、距離のことをおいておけば北米もよいかもしれません。
海外出店の流れ
次に、実際に海外出店する時の流れを説明します。
海外出店の流れは以下のようになります。これは個人ではなく、チェーン展開をしている法人の場合の場合です。
- 情報収集
- 事業計画立案
- 補助金申請、資金調達
- 現地視察
- 現地パートナーの選定
- 現地法人設立
- 物件選定
- 開店
情報収集
まずは海外の情報を集めます。海外出店をすることを前提に情報収集をするのではなく、まっさらな頭で情報を調べてみるのが重要です。
出店を前提に調べると、どうしても情報をまげてしまいます。
フラットに情報を解釈するためにも、その国の需要や現状の情報を雑誌や新聞、インターネットなどから幅広く集めましょう。
また、FacebookなどのSNSで質問をするのもよいですし、英会話の講師など、日本に住んでいる外国人の方に話を聞くのもよいですね。
事業計画立案
情報を集めた後には、その情報を元にコンセプトを作成し、事業計画を作成します。
マーケティング的な観点から、海外出店を成功させるためのプランを考えます。
参入すべき市場、自社のポジション、狙うべきターゲット、商品、価格、流通チャネル、販促方法などを決めます。
現地のターゲットに合わせたマーケティング戦略を作成できるかどうかが、その事業を成功させられるかの分かれ目となります。
投資計画や損益計画など、将来の収益化までの見通しもこの段階で作成します。この事業計画とコンセプトは、何度も練り直すことが大事です。
現地視察・調査
事業計画・コンセプトを作成したら、現地の視察を行います。
現地の法規制や政治情勢、国民性、現地での食材の仕入れやその品質の確認、現地の人々の生活習慣を知ることで、事業プランを具体化していきます。
現地のモニターにいくつかの商品に関してのインタビューやアンケートを行い、味覚の確認や商品に対して持つ感想を知ることも重要です。
補助金申請、資金調達
自己資金だけで海外出店するのでない場合、資金調達をしなくてはなりません。金融機関やベンチャーキャピタルから融資を受けるという方法です。
海外ビジネス展開のための融資は、その他の融資よりも有利ではあります。海外需要を取り入れることは日本政府も課題としており、銀行も評価する可能性があります。
また、補助金や助成金の活用という手段も考えられます。こちらは金融機関よりも時間がかかるので、事前から準備しておく必要があります。
資金調達は日本で行うのか、現地で行うのかによっても手続きはかわります。どちらにするかなどは、専門家に相談するのがよいでしょう。
現地パートナーの選定
現地パートナーを得ることで、投資額を抑えることができますし、失敗時のリスクも小さくできます。
現地企業とのコネクションがあるので、調達や販売において有利になるというメリットもあります。
もちろんパートナーと協力関係が築けなかったり、収益面でのトラブルなどが起こる可能性もありますが、現地パートナーを得るメリットは大きいといえるでしょう。
現地パートナーを見つける方法としては、JETROや海外展開支援機関などからの紹介、現地での商談会や展示会、コネクションがある人からの紹介、現地でのマッチングイベントなど様々な方法があります。
現地パートナーとはトラブルが起きがちですので、しっかりと選定しなくてはなりません。
現地パートナー候補の会社を訪れる、同業他社にヒアリングする、インターネットで調査を行うなど、慎重に決定するのがよいです。
特に、紹介してもらった人に金銭が発生するような紹介の場合は注意が必要です。
現地法人設立
海外出店をするときには、現地法人(子会社)を作るか、日本の法人の支店という形にするかという2つの方法のどちらかになります。
現地法人とは、日本の会社とは別に独立した海外現地法人、つまり子会社を現地に作るという方法です。
現地法人にすることで、現地での法人税の申告となりますので、日本よりも法人税が低い国であれば、税金を抑えることができます。
現地法人を設立するには、その国の法律なども知らなくてはならないので、専門の司法書士事務所や税理士事務所に依頼するのがよいです。
開業手続きなどの各種申請書や不動産契約に伴う契約書なども、こういった専門家に依頼しましょう。
店舗探し・店舗作り
事業計画で考えたコンセプトに沿って、店舗を探し、内装を作ります。
ターゲットや自店の取るべきポジションを考慮にいれた上で、最も自分のお店に合った場所に店舗を作るようにします。
国内の場合と同じく、海外に飲食店を出す場合にも立地はとても重要な要素となります。
現地の人通りや繁華街の様子を調べるとともに、現地パートナーからヒアリングをしましょう。
立地が決まったら、内装や設備を整えます。事業計画に沿って、ターゲットとコンセプトに合わせて内装や設備を設置します。
開業手続き
いよいよ開業の手続きを行います。
日本でも開業の際に、食品営業許可申請や食品衛生責任者などが必要になりますが、海外でも店舗を開業する場合には法律があります。
国によって開業に必要な手続きは異なりますので、専門家に相談して必要なものを準備します。
外国人参入禁止業種などもありますので、調査・コンセプト作りの段階でこのような情報を確認しておきましょう。
開業手続きが完了して、提供する商品や店舗作り、人材の準備ができたら、いよいよお店をオープンさせることができます。
海外出店の注意点
飲食店が海外出店する際に、注意しなければならないポイントがあります。
食材の注意点
日本から食材を輸出する場合には注意が必要です。こだわりから、日本の食材を多く利用するということになると、日本から食材を輸出しなくてはなりません。
その場合、コストが大きくなってしまい、提供する商品の単価が上がってしまいます。
その結果、現地での適正な価格からずれることになってしまい、失敗することになります。
また、食品店添加物は国によって大きく違いがあります。日本から送る食材によっては、税関で止められることもあるので注意しましょう。
計画の段階で、現地の食材を使えないか、メニューを変えることで対応できないかを検討しておきましょう。
人材の注意点
飲食店では、ホールスタッフや調理スタッフなどは現地で雇用することが多くなります。
現地スタッフの教育ができる人材を確保しなくてはなりません。言語が話せて、自社のノウハウを持ち、マネジメントができる人材でなくてはなりません。
そのような人材の育成ができなければ、海外出店を成功させることは難しいでしょう。
現地人用の教育プログラムも準備する必要があります。将来的に現地人のマネージャーを育成するプランを作成しなくてはなりません。
契約の注意点
現地のパートナーとライセンス契約する場合には、ロイヤリティの支払いなどでトラブルになることがあります。
契約書の抜け道をついてきたり、不利な条件を契約に付与されることによって、ロイヤリティの支払いが行われなかったり、金額が想定よりも小さくなる可能性があります。
現地のビジネス習慣、法令に詳しい弁護士やコンサルタントを活用するのが、これを避ける方法として考えられます。
まとめ
飲食店の海外出店のメリット、海外出店の流れや注意点を解説してきました。現代は日本食の需要が海外でも高まっていますので、飲食店にとっては大きなチャンスです。
ただし、安易に出店してしまうと失敗してしまうことになりますので、事前にしっかりと戦略を練る、他店との差別化を図るなどを行うのがよいです。
そして、専門のコンサルタントやサポート業者であれば、多くの経験や事例があるので一度相談してみるというのもひとつの手ではないでしょうか。
キャロットは飲食店や食品事業者様を対象にコンサルティング支援を行っております。事業の企画段階からメンバーとして参画、その後の成長までお手伝いすることができます。