飲食店の働き方改革対策とは?メリット・デメリットと導入方法を解説
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働き方改革法案とは?
働き方改革法案とは、2019年4月1日から施行された法案であり、安倍内閣が掲げた「一億総活躍社会」を実現するための法案です。
その目的は以下です。
労働者がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会を実現する働き方改革を総合的に推進するため、長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保等のための措置を講ずる。
参考:厚生労働省
少子高齢化による労働人口の減少、長寿社会、働くスタイルの変化によって、多様な働き方を実現するために施工されたのです。
働き方改革法案のポイントは以下となります。
- 長時間労働の解消
- 非正規と正社員の格差是正
- 高齢者の就労促進
これらを行うことで、出生率を向上しながらも、高齢者の就労促進を行い、労働力を増やすのが狙いです。
働き方改革が飲食店に与える影響
では、働き方改革法案は、飲食店にどのような影響を与えるのでしょうか?
時間外労働の上限規制の導入
働き方改革によって、時間外労働の時間数に上限が設けられました。時間外労働の上限を月45時間、年360時間を原則とし、臨時的な特別な事情がある場合でも年720時間、単月100時間未満、複数月平均80時間に限度を設定。
これまでの労働基準法においては残業時間の上限規制がなかったため、多くの企業で長時間の残業が広く行われていました。
ワタミや電通など、長時間の労働による過労で自殺が発生したことが、大きく話題になったのも記憶に新しいです。私が働いていた飲食店でも、仕込みから深夜営業まで、残業時間はとても長かったことがありました(今では改善されているはずです)。
飲食店では、昼営業や深夜営業をしている場合など、社員スタッフの労働時間は長くなりがちですが、これからは残業時間が増えないようにする必要があります。
時間外労働に対する割増賃金の見直し
月60時間を超える時間外労働への割増賃金率は、これまで大企業50%、中小企業25%でした。これが働き方改革によって、大企業50%、中小企業50%と、中小企業への優遇措置を廃止することになりました。
中小企業の割増賃金の施行は、猶予期間が与えられていますが、2023年4月1日からすべての企業が行わなくてはなりません。
中小の飲食店は、一人の従業員を長く残業させると割増で費用がかかってしまうことになるので、一人の人間を長く使うのではなく、交代させる必要があります。
一定日数の年次有給休暇の確実な取得
10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して、5日は毎年時季を指定しなくてはならなくなりました。
10日以上の年次有給休暇が付与される労働者とは以下です。
- 入社後6か月が経過している「正社員」またはフルタイムの「契約社員」
- 入社後6か月が経過している週30時間以上勤務の「パート・アルバイト」
- 入社後3年半以上経過している週4日出勤の「パート・アルバイト」
- 入社後5年半以上経過している週3日出勤の「パート・アルバイト」
これまでは、こういった人の有給休暇の申請は任意でしたが、働き方改革によって企業側が労働者に「5日分の有給休暇はいつ取得するの?」と聞かなくてはならなくなりました。
飲食店では、正社員だけでなく多くのパートやアルバイトを雇用していると思います。入社後6か月が経過していて、週30時間勤務しているアルバイトもたくさんいるはずです。
飲食店は、こういった人に対して有給休暇の取得を必ず聞かなくてはなりません。もしそれを避けたいのであれば、週の勤務時間を30時間以内に抑えたり、入社3年半の人は週4日以内に抑えるなど、働く時間を調整しなくてはなりません。
労働時間の状況の把握の実効性確保
労働時間の状況を、省令で定める方法によって把握しなくてはならないことになりました。
これは、裁量労働制の適用者や管理監督者を含め、すべての人の労働時間を客観的な方法で把握しなくてはならなくなりました。方法としては、タイムカードやICカードなどです。
この労働時間には、以下の時間も含まれることに注意が必要です。
- 使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)を事業場内において行った時間
- 使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間
- 参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間
飲食店では、タイムカードで勤務時間を確認しているところが多いと思いますが、いまだに手書きのお店もあるかもしれませんが、そういった場合にはタイムカードを導入しましょう。
着替えの時間や研修の時間などは勤務時間に入れていないお店が多いですが、今後はそうもいかないでしょう。
勤務間インターバル制度の普及促進
勤務後には一定時間以上の休息時間を設ける努力義務を課すのが「勤務間インターバル制度」です。
勤務が終了した後に、一定時間のインターバルを設定することで、労働者の休息時間・睡眠時間を確保することが目的です。
インターバルを11時間とした場合、前日の勤務終了時間が23時だった場合には、10時以降の出社にしなくてはいけないというようなイメージです。
飲食店では、仕込みのために早く出社しなくてはならなかったり、深夜営業が終わってからの出社までの時間が短いことがあります。これは健康上もよくないですし、今後はきちんとインターバルを取る必要があります。
不合理な待遇差を解消するための規定の整備
働き方改革では、雇用形態に関わらない公正な待遇の確保も整備されました。
いわゆる「同一労働同一賃金」というもので、正社員とパートなどの非正規社員の職務内容が同じで、同レベルの労働を行っている場合には、給与などの待遇差を解消しなくてはなりません。パート社員だからといって、安い給与を支払うという事が出来なくなるのです。
また、給与だけでなく休憩室や更衣室なども、平等に非正規社員も利用できるようにしなくてはなりません。
非正規社員は、こういった待遇差について説明を求められるようになります。
飲食店にはパート社員が多くいると思います。そういった非正規社員は、発注業務など社員と同じ仕事をしている場合も多いでしょう。そのような場合に、正規社員と同レベルの給与を与えなくてはならないのです。
飲食店の働き方改革のメリットとは?
働き方改革の説明をしてきましたが、飲食店にとって働き方改革にはどのようなメリットがあるのでしょうか?
離職率の低下
飲食店は立ち仕事が多いですし、身体的な疲れがたまりやすい仕事です。
働き方改革によって、従業員はしっかりと体を休められ、健康的に働くことができます。それによって社員の満足度が向上するでしょう。
満足度の向上によって離職率が低下するので、結果的に採用コストや教育コストを抑えられます。
優秀な人材が採用できる
飲食業界というのは、どうしてもハードな仕事というイメージがあります。そんななかで働き方改革を実施すれば、他社よりもよりよい会社という印象が与えられます。
優秀な人材というのは、待遇のよい会社に集まります。働き方改革を実施して社員の環境を整えることで、優秀な人材を得られる可能性が高まります。
優秀な人材がビジネスモデルを作ったり、売上を大きく上げれば、働き方改革によるコストを大きく上回ることができます。
注目される
働き方改革を実施して従業員の働きやすさを整えることで、ネット上で話題になる可能性があります。
従業員のための一風変わった制度を作ることで、メディアなどに取り上げられ、取材をしてもらえるかもしれません。
それによって認知が上がったり、集客を増やすことができる可能性があります。
働き方改革による飲食店のデメリットとは?
働き方改革には、もちろんメリットだけでなくデメリットがあります。
人手不足
社員が有給の利用をしなくてはならなかったり、勤務間インターバルや残業時間に上限が設けられることで、人手不足に陥る可能性があるのです。
単純に社員の労働時間が減ることになるので、これまでと同じような仕事量を行えなくなります。
だからこそ、人員を雇う、作業を短縮するなどの工夫が必要となるのです。人を雇うための人件費がかかります。
現場に負担がかかる
有給消化や残業時間の上限によって、人手不足になるので、現場の従業員に負担がかかります。
より短時間で、より多くの仕事をしなくてはならなくなので、従業員は忙しくなります。
また、残業時間が関係ない管理職がその分の負担をかぶらなくてはならなくなる可能性があります。
このように、現場への負担を抑えるためにも、飲食店では人員を増やすか、仕事を減らすかなど工夫をしなくてはなりません。
飲食店が働き方改革を導入する方法
飲食店はただ働き方改革をしたとしても、現場への負担が大きくなることがわかりました。
では、飲食店が働き方改革によってメリットを生み出すには、どんな方法で行うのがよくて、どのようなポイントに注意すべきなのでしょうか?
業務の見直し
業務量に変わりはないのに、働き方改革によって労働時間が減ることになれば、人手が足りず店は回らなくなります。
かといって、すぐに採用ができるわけではないので、業務を減らす工夫=業務の見直しをすべきです。
無駄な作業はないか、まとめてできる作業はないか、効率的にできる方法はないか、もっと省略できないかなどを検討しましょう。
例えば、水やおしぼりを出す作業をなくしてセルフサービスにできないか、調理工程を減らしたり、まとめてできる工程はないかなどです。
人材の確保
飲食店での働き方改革の導入後は、人材を増やさなくては難しい可能性があります。
働き方改革によって従業員の労働時間が減ることで、現場への負担が大きくなるので、それをカバーするためにも人材が必要なのです。
採用する人材は、社員よりもアルバイトの方がコストを抑えられます。業界経験者のアルバイトであれば、即戦力になりやすいでしょう。
外部リソースの利用
働き方改革で労働力が足りなくなると、すべての業務を自社で行うことが難しくなります。
現代ではITの発達により、インターネットを通じてアウトソーシングできるサービスが増えています。事務や経理、広告宣伝、教育などは、ITによって外部の会社に任せることもできます。
働き方改革による負担を減らすためにも、これらの費用は投資と考えて、外部のリソースも有効に活用していくのがよいでしょう。
教育の徹底
働き方改革によって、管理職への負担が大きくなることが予想されます。現場スタッフの労働時間が減ることで、それを管理職がカバーしなくてはならなくなるのです。
管理職が行う作業が増えてしまうと、本来すべきマネジメントが疎かになってしまう可能性があります。
そこで、管理職に仕事が集中しないためにも、教育が重要になります。すべての従業員が同じ作業ができるようにしておけば、管理職はいつでも業務をふることができます。
お店をうまく回すためにも、しっかりと教育を行うようにしましょう。
コミュニケーションを取る
働き方改革では、より業務を効率化しなくてはいけませんが、そのためにはコミュニケーションが大事になります。ミーティングなどで忖度なく業務に関して意見をもらうことで、より業務を効率化することもできます。
また、労働時間の状況の把握をしなくてはいけませんし、そのためには管理職は従業員の労働状況を知っておかなくてはなりません。
有給休暇の取得に関しても、コミュニケーションによって促すことができますし、利用状況を確認できます。
何より、従業員の体調やメンタルに問題がないようにするのが重要ですので、コミュニケーションを取って把握するようにしましょう。
営業時間の短縮
深夜営業など、長い時間の営業を行っている場合には、時間外労働の上限規制や勤務間インターバルによって、どうしても従業員が不足します。
この問題を解決するためのもっとも手っ取り早い方法は、営業時間の短縮です。
人件費を差し引いた深夜帯の利益が小さい場合、深夜の営業をやめた方がメリットが大きい場合があります。
新しく人を雇わなくて済みますし、従業員の労働時間も大幅に減らすことができます。長い時間の営業をしている店舗は、営業時間の短縮を検討してみましょう。
まとめ
今回は、働き方改革の内容と、働き方改革のメリット・デメリット、飲食店が働き方改革を導入するための方法などを解説してきました。
飲食店にとって、働き方改革は経営を圧迫するように感じるかもしれません。しかし、従業員の労働環境を整えることで、様々なメリットが得られる可能性もあります。
工夫をしながら働き方改革の対応をしてみましょう。
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